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巻頭コラム No.146

死刑判決が確定したオウム幹部のうち、僕は6人に会っている。 麻原は精神障害を起こしているのではないかとの僕の見立てについて、 彼らの多くは面会時に、決して積極的に同意はしなかった。 「詐病ではないか」と言われたこともある。 「なぜそう思うのか」と訊けば、「その程度はやる人だから」とのニュアンスで答えられたことを覚えている。

被告席で大小便を洩らす。あるいは実の娘の眼の前で自慰行為に耽る。 普通の精神状態ならありえないと見なすべきこれらの行為も、彼らにすれば「尊師ならその程度は(簡単に)やる」との文脈で整合する。 2005年に麻原に面会した中島節夫精神科医が、顔や両瞼がピクピクと痙攣し続ける線維束性攣縮は意識的には困難な動作であるとしたうえで、 「脳の前頭葉から側頭葉にかけての領域が委縮しており、アルツハイマーの末期と同様の症状に陥るピック病も含めて、器質性脳疾患の疑いが強い」 と所見を表明したときも、「尊師なら線維束性攣縮くらいは簡単にやるだろう」と彼らは考えたはずだ。

もちろん「その程度はやる」の意味は、「そういう悪辣なことをやる」と「そういう常人には不可能なことをやる」の二つの意味がある。 そしてこの二つは、「自分たちが身も心もささげた教祖が普通人と同じ規格のはずがない」との願望が根底に駆動しているという意味では共通している。 言い換えれば「尊師ならやりかねない」は、「麻原が最終解脱者であることを信じる」ことと、 あるいは「A3」のエピローグで中川智正さんが言った「…化けものです」と、位相はほぼ同じなのだ。

ならば否定せねば。ただの人間だ。最終解脱などありえない。だからこそ無残に精神が崩壊した。その現実を見据えなさいと伝えたい。

2012.1.10 森達也

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森達也のブログ巻頭コラム2011.01.10.

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